夜のピクニック (新潮文庫)

夜のピクニック (新潮文庫)

よくよく考えてみると、内容的にはありえないだろうと思えるような設定なのに、実に平坦で奇をてらうことのない文章のせいか、嫌味なく普通に読めてしまう。
わりと複雑な人間関係で微妙な心情を描いているのにも関わらず、こんなにも疑問を抱かずに、すべて納得して読み終えることができるとは。なんというか読後感最高ですね、こういうのったら。
歩行祭っていう行事も、ただただ歩くだけの行事で、特にドラマチックな事件が起きるわけでもないんだけど、実際問題、夏の夜に高校生が同級生とただひたすら歩く。なんて甘酸っぱい行事なんだ。夏の夜はどうにもこうにも気分が盛り上がって、原付で世田谷通りを意味なく暴走したりする妙齢女子ですから。時速40キロで。
なんか、心情がリアルで、ものすごく共感しながら読めた。主人公の甲田さんの気持ちが分かりすぎる。最初から許している。最初から諦めている。うん、そんなかんじで生きてる、自分も。
そんで異母兄弟でしょ。実はうちの親は再婚なので、自分にも異母兄弟がいたりする。正直、本当の父親よりも会ったことのない兄弟の方が気になる。自分が一人っ子だから余計にそう思うのかもしれない。でも実際に会ったら会ったで面倒なことの方が多いのかもしれない、とも思う。ある意味、爆弾だよね。
会わない方が幸せなのかもしれないし、一生会わずに終わるのかもしれないけれども、確実にどこかに存在してるんだもんな。そして切っても切れない何かでつながっちゃってるんだぜ。すごく不思議な存在だと思う。
そしてそれが同じクラスにいたらなんてねえ。そりゃ気にもなるよ、うん。
途中までストーリーと同じく、徒歩ペースでのんびり読み進んでたんだけど、ラストは先が気になってかなり急ぎ足で読んでしまった。
中盤まで漂う気まずい緊張感と、最後の方のわだかまりが解けるかんじも、すごくよく分かる。じんわりとハッピーな気持ちになれた。